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「薫殿!」
庭へと小走りに逃げる薫の腕を、やっとのことで掴まえた。
腕を捕らえられた薫は、笑いながら剣心の周りをくるくると回りだす。
「薫殿!」
お転婆な彼女のその行動に、剣心は苦笑しつつ、しかし、抵抗するでもなく。
やがて、ぐっと腕に力を入れると、薫を自分の胸へと引き寄せた。
「きゃっ!」
二人は反動から抱き合ったままくるくると回る。庭に落ちた赤や茶色の落ち葉が、二人の足によってカサカサと音を立てる。
「掴まえたでござるよ。」
剣心の悪戯を含んだその言葉に、薫はふふと微笑む。
自然と二人の目が合う。
薫はそっと彼の左頬に手を添えた。と、同時に彼の顔が近づいてきた。
その水晶のような薄紫の瞳に、何度吸い込まれたことか…。薫はそっと目を閉じた。
トンと音がして、薫の背中が壁にあたる。
彼からの優しい口づけは、啄むように音をたてながら、離れては触れてを何度も繰り返す。
その一つ一つに優しさと、想いが込められていて、薫もそれに応えるように、ぎゅっと彼の着物を掴む。
彼に見つめられて、その匂いに包まれて、ぎゅっと抱きしめられて・・・。真っ暗闇でも分かる、彼の想い。
薫は心の中で、ほっと、幸せの溜め息をついた。
ようやく離れたその唇は、今度は頬に、目に、顔中にと口付けの雨を降らす。
「ふふ、くすぐったい。」
「ん?」
くすくすと二人の笑い声が静かに響く。
「ん・・・・、ね、弥彦が来ちゃう。」
そっと薫が囁いたが、剣心は薫の肩口に顔をうめていて、反応がない。
「剣心?」
「今しばらく、・・・」
薫が剣心の名前を呼ぶと同時に、彼が小さく呟いた。
「今、しばらく・・・、このままで。」
いつもの自分なら、ここで『もう、ダメっ!弥彦に見られたら何言われるか分からないんだからっ!』などと反論して、彼を突き放すのだろう。
でも、今日は・・・、
「ふふ、うん。」
薫も剣心の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめ返す。
それは、先ほどの口付けに満足しているからか、していないからか・・・。それとも、ただ酔っているだけかもしれない。
掃除に洗濯、買い物に稽古。やらなきゃいけないことは沢山ある。
薫は彼の肩口から見える空を見て、微笑んだ。
私達は自由なのだから。
だから、もう少しだけ、ワガママを言わせて・・・。
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あとがき。
「水飛沫の中、君と踊る」の続編にあたります。
ひたすらいちゃこらな話になりましたが、どうでしたでしょうか。
2人がくるくる回る様子は、私の中では映画のワンシーンのようなイメージがあって。ww
これを読んでくれた方にも、その「映画のワンシーン」を想い浮かべてもらえたら…。とか思ってるのですが・・・。
その「映画のワンシーン」を文章にするという事は、なかなか難しい事ですね