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「あ~~!悔しい~~」

快晴の空の下、神谷道場から響いてきた声は、操のものだ。

「緋村、あんた強すぎぃ~~」

縁側で手足をバタつかせる操の目の前には、剣心がニコニコと座っている。二人が向かい合っているその間にあるのは、碁盤が一つ。
盤上には白と黒が、その領域を競い合っている。

「はは。操殿もなかなかのものでござったよ。」

「きぃ~~~~っ何なのよっ!その余裕っぷりな態度っ!!むかつく~っ!もう一回っ!もう一回勝負よっ!」

操の負けず嫌いの性格にさらに火がついたようだ。その目は剣心を睨み付けながら、碁盤に散りばめられた石を集め、始める準備をする。
と、そこへ盆を両手に抱えた薫が現れた。

「あら?操ちゃん、また負けちゃったの??」

「薫さんっ!聴いて~!にくったらしい緋村ったら、こォ~~んな顔するのよ~!」

操の「こーんな顔」を見て、薫はもちろん、剣心も苦笑いする。


「へ~、剣心って強いのね。」

「いやいや、そんな拙者は・・・」

薫が持って来た盆を置く。冷えた赤い西瓜が綺麗に並べられている。

「ねっ!私にもやらせて!!」

好奇心旺盛な薫の目の輝きに、思わず剣心は「えっ」と声を漏らしたが、その声は操の声によって掻き消されてしまう。

「もっちろん!!薫さんっ!緋村なんかこてんぱんに負かしてやってよ!!」

操は勢いよく立ち上がりその席を譲ると、薫が持って来た西瓜に手を伸ばす。

「あーあ、緋村に本音を吐かせるイイチャンスだったのに~」

「みっ、操殿っ・・・!!!」

「え?本音って??」

操が西瓜を頬張りながら漏らしたその言葉に、薫は疑問符、剣心は何故かあたふた。
その二人を交互に見て、操は「あっ」と口を押さえる。が、時既に遅し。目を泳がせ、戸惑いながらも白状する。

「あ~、えっとね、勝負して、負けたら、勝った方の言うことを何でも聞くってことにしてたんだ。」

「そうなんだ~」

「あっ!ねえ、薫さんが緋村に勝ったら、どうするの?!」

操が薫に迫る。その様子は、必死にさきほどの話題から逸らそうとするような行動にも見えるが。

「え?そうね~~・・・」

考え出した薫に、操は密かにほくそ笑む。
(そうだっ!ここで、ここで、「剣心の本音を聞きたい」って薫さん!言うのよっ・・・!!)

「かすていらを買って来てもらおうかしら。」

「・・・へ?」

操の目が点になるのも構わず、薫は剣心ににこりと微笑む。

「まだ怪我が完治した訳じゃないけれど、かすていらを買いに行くくらいなら大丈夫でしょ?ちょうど身体を動かせるし・・・。
 あっ!ついでに操ちゃんのお土産の分も買って来てもらったら?」

薫が目を輝かせるのとは対照的に、操は唖然とする。

「う・・・うん。」
(・・・・・そうくるとは思わなかったわ。薫さん・・・)

操がガクンと項垂れるのを横に、剣心はにこりと微笑みながら「いいでござるよ」と返事を返す。

「じゃあ、剣心は?」

「え?」

思わぬ薫の問いかけに、剣心は少し驚いたように返す。

「剣心が勝ったらよ。剣心はどうするの?」

勝負に勝った者が、ということは、自分が勝つ事だってあり得ることなのだ。現に、操に勝ち続けている剣心は、今度の薫との勝負も(薫には悪いが)勝つ自信だってあるのだ。

「せっ、拙者は~・・・・」

「何か欲しいものとかないの?」

戸惑う剣心に、薫は首を傾けて聞き返す。

「欲しいもの・・・」

薫と目が合う。

欲しいもの。

欲しいものと聞かれて、欲しいもの・・・無い訳ではない。

手に入れたくて、でも今まで蓋をしていた。必死に。

自分では不釣合いだと。あまりに彼女は純粋すぎて・・・。

自分の過去を彼女に背負わすのはあまりにも・・・。

でも、でも、もう・・・・

それでも拙者は君が・・・・・・

 

薫の藍色の瞳が不思議そうに剣心を見つめる。その瞳に自分が映っている。


「ね?剣心の欲しいものは?」

「拙者の、」

項垂れている操は、盆の側にちょこんと座り、西瓜をちびちびと食べている。

 

「拙者の欲しいものは・・・、」

 


もう、迷うことはない。

 


「拙者の欲しいものは、・・・薫殿で、ござる。」

 

いつもより低い声で。でも、確かに聴こえたその言葉に、薫と操は固まる。

「その・・・、最近、操殿や弥彦達と町へ出かけてばかりでござったろ。でも、今日は、・・・ずっと側にいて欲しい。」

薫はだんだんと頬に熱が溜まってくるのを感じつつも、剣心のその真剣な瞳から、目が逸らせない。彼の目は、本気だ。

「あっ、あたし、蒼紫様んとこ行ってくる~~」

その場の空気に耐え切れず、操が立ち上がる。
(なんだか、うまくいっちゃってるみたいね。あの二人・・・)

「私が手を出すほどのことじゃ無かったってことね~・・・」

やけに静かな神谷道場を後にしながら、操の小さなため息は、初秋の風に消えていった。

 


_______________________
あとがき。

なんか、最後の方、ほとんど囲碁とか関係無くない?!みたいな感じになってきちゃってますがっ
おいおい、剣心!賞品は勝負をして勝ってからの話だぞっ!!(笑)

「キレイな愛じゃなくても」シリーズというのを始めてみたいと思います。
各お話の題名はとにかく、「キレイな愛じゃなくても」を聴いてもらえば分かります。(笑)

お話は、繋がってたり、繋がってなかったり・・・。あ、でも繋がってるかも?!みたいな(どっちだよ)笑

私、囲碁やったことなくて(笑)ほとんどルールが分からなかったのですが(大丈夫か?!)
とてもイイ機会になりました。また次も囲碁でくるかもしれません

これからどうなるか全く今、検討がついてません。(をいっ笑)がっ!でもとりあえず、大好きなこの曲を聴きながら、剣薫の甘いお話が書けたらな~と思っています。

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