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あの日
あの五月十四日
あの日も蛍が舞っていた
泣き崩れてしまった私を なぐさめるように
蛍たちは ゆらゆらと。
私の涙は ぽろぽろと。
行灯の明かりが揺れる。
気がつくと、目の前には出かけていたはずの夫の顔があった。
その顔は心配そうに、薫を覗き込んでくる。
「薫殿?」
「・・・けんしん?」
どうやら自分は裁縫をしながら、いつの間にか転た寝していたようだ。薫は目を擦りながら剣心に微笑む。
「おかえりなさい。お仕事はもう終わったの?」
「ああ。今まで待っていてくれたのでござるか?遅くなってすまない。」
妻の健気さを想うと、剣心はどうしようもない愛しさが込み上げてきて思わずその手を握った。自然と微笑みがこぼれる。
「ううん。山県さんにはお会いできたの?」
このところ剣心は、その剣の腕を買われ、警察の手伝いをするようになっていた。今日は特別、あの山県有朋から声が掛かり、こうして夜更けまで出掛けていたのである。
「ああ。それよりこんな所で寝ていては風邪をひく。」
言うか否か、剣心は薫をそっと抱き上げ、居間を出て、今やすっかり二人の寝室となった部屋へと進む。
夜風がそわそわと吹いてきて、廊下に吊るした風鈴が静かに鳴った。
足で障子を開けると、布団は既に敷かれてあり、その上に薫をそっと寝かせた。
「拙者は一風呂浴びてくる故、先に寝ているでござるよ。」
そう言って、薫の髪を一、二度撫でると、出て行ってしまった。
残された薫はなぜか顔を歪めていた。
そして思い出していた。
(あれ・・・・?この香り・・・・。どこかで・・・。)
先ほど、剣心に抱きしめられたことで、彼の匂いはもちろんだが、どこか・・・違和感のある匂いが・・・・・。
(これって・・・、もしかして・・・・、)
-・・・・・おしろい?-
*******
もぞもぞと、右手を動かす。隣の温もりは既にからっぽだった。
-もう朝?-
薫はうつ伏せのまま、ため息を吐いた。
重たい瞼を持ち上げると、障子から差し込む朝の光に思わず目を窄めた。
味噌汁の匂いが漂ってくる。きっと剣心が朝飯を作ってくれているのだろう。
自分も起きて手伝わなければ、と思い身体を起こそうとするものの、
-気だるい・・・-
このところ、ずっと思っていることだ。
-このまま、まだ眠れそうー
そしてこの妙な眠気。
昨夜も、あの‘おしろい’の事を悶々と考えていたのだが、眠気に負けてそのまま眠ってしまっていた。
このところ、ずっとそうだ。 そして、考えてばかり・・・。
その原因・・・。その原因は・・・・。
薫はゆっくり仰向けになると、自分の腹をそっと押さえた。
-本当にここにいるのかしら・・・-
『おめでたじゃよ。』
言われたその言葉は、昨日、一昨日と、二日前の玄斎先生の言葉だ。
剣術の稽古をしていても、洗濯物をしていても、何をしていても妙に身体がだるく、食欲もあまり無い。
初夏のこの季節、日中の蒸し暑い日々。
そのため食欲が無いのか・・・と、はじめは考えた。
しかし、無性にイライラしたり、たまに眩暈がしたりする。
夏風邪かとも考えた薫だが、
-そういえば・・・このところ月のものがないー
そこで、はっと気がついた。
半信半疑ながらも、すぐに玄斎の所へ行き、診察を受けたのである。
そうして分かった自分の‘おめでた’。
しかし、あれからもう三日目になったが、それを夫の剣心には伝えていない。いや、未だ"伝えられず"にいるのだ。
自分にとっては‘おめでた’でも、 でも彼には、 彼にとっては・・・・?
剣心は・・・・きっと喜んでくれる・・・。くれると思う・・けど・・・・
もしも・・・もしも剣心が望んでいなかったら・・・・。
彼には迷惑なだけかもしれない。
ううん。喜んでくれる。だって、私達は夫婦なんだから・・・
でもでも・・・・もしかしたら・・・また、離れて行ってしまうかもしれない。
彼のが望んでいなかったら・・・ 重荷になるだけかもしれない・・・・・
『妊娠中は、不安な気持ちになりやすいものじゃと聞く。
しかし、そう思い詰めず。きっと‘彼’も喜んでくれると思うのじゃがなぁ。』
玄斎の微笑みと、その言葉が頭に蘇る。
薫は目を瞑ると、もう一度ため息を吐いた。
********
「今日も遅くなる故、先に床に着いていていいでござるよ。」
陽の光も西へと傾き始めた昼過ぎ頃。
表へ出るため、門へと向かいながら剣心は振り向きざまにそう告げる。
「うん。分かったわ。」
その後ろを、見送るために着いて行きながら、薫は頷いた。
門まで来ると、彼はくるりと薫の方に向き直った。
「では、行ってくるでござるよ。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
薫は軽く右手を振った。
その手を剣心がやんわり掴むと、薫のこめかみにそっと口付けを落とす。そうして、一、二度薫の髪を撫でると、くるりと向きを変え、出掛けていった。
夫が出て行った後も、薫はぼんやりとその場に立ち尽くしていた。
(そういえば、あのおしろいの匂いはいったいなんだったのかしら・・・)
彼はよく人助けをする。
もしかしたら、帰り際に誰か女の人を助けたのかも・・・・。
それとも、今回の仕事は女の人を助ける仕事なのかもしれない。
もしかして、もしかして・・・
まさか・・・、まさか彼に限って・・・・違う女の人に想いを寄せているだなんて・・・
そんなこと・・・・・
そんなっ、こと、ないよね・・・。
また不安になる。
考えれば考えるほど不安に駆られてしまう。
不安に飲み込まれそう。
吐き気がしてきた。
(ううん。ダメ。ダメよ。こんなんじゃ・・・。しっかりしなきゃ。)
ふと、庭に目をやると、乾いた白い洗濯物が風に揺れているのが目に入った。
「そうだ、洗濯物入れなくちゃ。」
ぽつりと呟きながら、薫はトボトボ庭へと歩いて行く。
(そういえば・・・・・)
こんなに不安になるのって、あの時もそうだったっけ・・・。
あの日。あの五月十四日の日。
私はその前の日から少しずつ暗闇に飲み込まれていくような感覚だった。
必死にもがいて、何度も不安を振り払おうと首を振って。戦って。信じて。
だけど、あの暗闇の中で。彼に告げられた。あの別れの言葉。
「はぁ・・・。」
蘇ってきた過去の記憶を断ち切るように、薫は深いため息をついた。
「これを片付けたら、お散歩に出かけようかな。気分転換にでも。」
薫は空を仰いで、また一つため息をついた。
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あとがき。
書いているうちに長くなりそうだったので、前編としました続きは近々・・・・頑張りまっす(なぜ目を伏せる?!笑)
う~ん薫ちゃん、悶々としてますねをいっ!!旦那っ!!もっとしっかり薫ちゃんを守ってあげてっ!!って感じですが(笑)
薫ちゃんが妊娠した時って、どんな感じで剣心に伝えたんでしょうかね。気になります
その「気になります」をこれから私が妄想・・・想像してあるのですが・・・。(笑)
この懐妊話って、他にも湧き出てきそうなので、また題材にしたいなぁとか、書きながら思いました。なので・・・また別Verで書くかも。。。書いちゃうかも。。。(笑)
というかそれよりも、なんだこの題名はって感じですね(笑)ごめんなさい。B型なので。(そこっ)
これは、最後に明らかになります。というか、します。(笑)してみせます。がんばりまっす