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隣で眠る彼女は、まだ夢の中だった。
そっと肩を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
彼女の肩口に顔をうめると、思わず溜め息がでるほどの甘い香りがした。
「大丈夫だって。そんな心配することじゃねーよ。」
弥彦が素振りをしながら、声を荒げた。
「薫殿!」
庭へと小走りに逃げる薫の腕を、やっとのことで掴まえた。
腕を捕らえられた薫は、笑いながら剣心の周りをくるくると回りだす。
「薫殿!」
お転婆な彼女のその行動に、剣心は苦笑しつつ、しかし、抵抗するでもなく。
やがて、ぐっと腕に力を入れると、薫を自分の胸へと引き寄せた。
きらきらと朝日に照らされて、神谷道場の門前に、水滴が光る。
自分が水を撒いた部分が、だんだんと地面に黒く広がっていく。
地面が潤う、その様を見て微笑みながら、薫はまたせっせと手元の柄杓を動かした。
「あーあ、まただ・・・。」
障子から朝日が差し込み、白い布団の色がますます映える。
むくりと起きて目を擦りながら、隣の存在を探るが、既に蛻の殻。
乱れた髪を片手で整えながら、薫は溜め息を吐いた。
祝言をあげて、まだ一週間たらず。
夫である剣心は、妻である薫より早起きである。
いや、単に自分が朝に弱いだけなのかもしれないが・・・。
「あ、あのっ私、お茶・・・、お茶煎れてくるね!」
そう言って立ち上がったはずが、目の前にいた人物に手を掴まれ、体勢を崩しそうになる。
「いや、いいでござるよ。それよりも・・・」
‘カチャリ’と音を立てて、石が落ちた。二人の間に置かれている碁盤が、薫の足が当たった事によって、ガタンと揺れたからだ。
縁側の床に落ちた石の音が響く。妙にその音が大きく聞こえた。
「その・・・、一緒に散歩にでも行かぬか?」
はにかむ彼の顔はほんのりと赤かった。
「ひ~~むらっ」
「おろ?操殿」
名を呼ばれて、洗濯物を干していた手を止め縁側の方を振り返った。
そこには、何やら大きな箱のような物を手にした操の姿があった。
「ねねっ!これ見て~♪」
操が箱を大きく上に掲げた。